ETロボコンを活用した組込み技術者の育成

作成者: 立松伸哉

 SCSKの組込み部隊は、1970年代、製鉄所の搬送路制御から始まって以来、長い歴史があります。2000年前後のビジネス系基幹システム開発の活況に圧され、組込み技術者のビジネス系技術分野への配置転換が行われ、関西、関東地区の家電系部隊が解散され、名古屋地区の車載系開発を担当していた部隊のみが辛うじて存続しました。

 2000年以降の自動車への環境、安全要求が増えたことで、車載に搭載されるECUが急増し、ECUソフトウェアは複雑、膨大化しました。その結果、低迷していた車載系マーケットは2002年を底に回復し、SCSKの組込み部隊はモビリティシステム開発部門として車載開発を中心としたサービスを提供しています。
 私は、2006年に社内唯一の組込み系部隊の課長に着任しました。約80名の課員は、ほぼ全員が顧客先に常駐して、ECUソフトウェア開発に従事していました。顧客先での開発は常に納期に追われ、厳しいプロジェクトが多く、組込み技術者は常に不足状態でしたので、プロパー、協力会社関係なく、経験者であれば即投入する日々が続いていました。その結果2007年度末には、組込み部隊は200名ほどに急拡大しました。
 私は、部隊の拡大に合わせて、若手技術者の育成が急務として、課内独自の教育プログラムを定時後にメンバーを集めて、各ECUの開発熟練者による座談会や組込み技術の机上での勉強会などを実施していました。当初の勉強会は、講師の話を聞いたり、テキストを読んだりするものでしたが、組み込み系技術者育成には実践的な教育が不可欠と考えて、実践的な教育教材を探していました。
 そこで見つけたのが、LEGOのMind Stormsでした。当時の車載ECU開発は、すでに、分業化が進んでおり、個人で開発担当する機能は、車載システムの一部分となっており、組込みの本来の楽しみである自分で開発したプログラム通りに製品が動く楽しみを味わうことが難しい状態でした。LEGOのMind Stormsは、子供向けに簡易プログラムができる他に、C言語を使用したプログラムを開発し、動かすことができるものでしたので、技術者が考えて開発したプログラム通りに動かすことができるため、開発の楽しみを味わうことができ、プログラムの完成度を目に見えることができるものでしたので、組込み教育に採用しました。
 また、教材を採用する過程において、LEGOのMind Stormが、2002年から開催されているETロボコンで使用されていることを知りました。教育に参加するメンバーのモチベーションとして教育の成果発表としてETロボコンへの参加を検討しましたが、教育に参加するメンバーの現場は多忙な状況で、そこまでの時間をとることができず、ETロボコン参加は見合わせていました。
 メンバーの開発現場の多忙さは、これまでの開発手法に限界がきている証でもありました。車載分野では、2002年ごろから新しい開発手法であるモデルベース開発の導入が検討されていました。それまでの開発手法であるコードベースでは、複雑、膨大化する車載ソフトウェア開発には合わなくなってきました。今では、軽自動車にも搭載されているカメラ、センサーとエンジン、ブレーキが連携して、踏み間違いを防止するシステムなどは、コードベース開発ではできなかったといっても過言でないのです。このモデルベース開発がETロボコンで正式に採用されたのです。
 SCSKでのモデルベース開発教育は、2007年から課内独自教育としてMatlab/Simulinkと2足歩行ロボットを購入して、教育を実施していた経緯があり、新人教育としては、2008年からMind Stormsを購入してモデルベース開発教育を始め、2009年からETロボコンへ毎年参加するようになりました。
 ETロボコンに参加をはじめて、4年目で初めて全国大会に出場を果たし、翌年、念願の全国優勝を果たしました。社内においてモデルベース開発が浸透し、2012年には、顧客よりレガシープログラムで開発されたシステムをモデルベースで再開発する案件を受注するまでになりました。2007年からモデルベース開発の勉強会を立ち上げてから実務でモデルベースを使えるようになるまで5年ほどかかったことになりますが、ETロボコンへの参加がなければ、実務でのモデルベース開発実績まで漕ぎ着けなかったと思います。
 さらに、昨年のETロボコンでは、コロナ禍の影響で、制御対象がシミュレーション環境となり、競技自体もリモート参加、開発チームは、設計からテストまでを開発チームの全員リモートで行う“新しい開発様式”に対応しました。この開発の進め方は、これからの新しい開発スタイルとしての実践の場となりました。
 SCSKでは、新人教育プログラムにETロボコンが組み込まれており、新人たちの組込み開発の実践の場として有効活用されています。現場においても、モデルベース開発が採用されているため、配属される新人たちは、最初からモデルベース開発に従事するため、本来の組込み開発スキルであるマイコン仕組み、通信の仕組みなどの理解が浅いことが気になりますが、システム開発の経験を積むことで、この部分も補填できるものと考えています。
 自動車は、電動化、インターネット対応など、大きな変革期を迎えています。従来の組込み技術に加えて、エッジコンピューティング技術との融合で、車載システム開発に従事する技術者に求められるスキルは、さらに広がるでしょう。この自動車の変革に対応すべく、今期より新な教育プログラムを立ち上げ、この新しい分野での開発に対応できる人材の育成を進めております。
 SCSKの組込み部隊は、この自動車開発の変革に対応した車載ソフトウェア開発を自動車産業に関わる皆様からの信頼を基に、共に新たな価値を創造し、夢ある未来を築き、自動車産業の発展を支えて参ります。